編集長コラム)CSRを軽視したSDGsはあり得ない

5月22日付け日本経済新聞の名物コラム「大機小機」欄「3Gに入ったSDGs」を読んで、ちょっとした違和感を覚えました。ポイントは3つあります。(オルタナ編集長・森 摂)

まず、書き出しです。

コラムでは「持続可能な開発目標(SDGs)はその趣旨や理念を学習する第1世代(1G)から始まり、昨年あたりから社会への普及に一段と注力する第2世代移行してきた」(中略)「最近ではさらに進化してきた。SDGsの実質化であり、社会経済システムへの内装化の動きである」と始めています。

残念ながら、日本の現状はまだ「1Gと2Gの間くらい」と言わざるを得ません。朝日新聞の調査(2019年3月)によると、「SDGsという言葉を聞いたことがあるかという質問に『ある』と答えた人は19%」です。

裏を返せば、8割以上の人が「知らない」ということです。物事の認知度や普及度のティッピングポイント(発火点)は15%前後と言われ、SDGsも、ようやくそのポイントに達したかどうかです。そこは過大評価しない方が良いです。

もっと大事な、第2のポイントは、次の記述についてです。

「当初は従前の社会貢献活動や企業の社会的責任(CSR)の一環だと誤解されがちだったが、SDGsはこれらとは一線を画する考え方である」とあります。

この筆者は、「社会貢献活動」と「CSR」を混同し、同一視しています。しかし、CSR検定2級テキスト(2019年版)15ページの表にある通り、CSRには「4つの領域」があるのです。

 

 

4つの領域とは下記の通りです。
第1象限(右上)価値創造型CSR/CSV
第2象限(左上)広義のコンプライアンス(社会からの要請やソフトローへの対応)
第3象限(左下)狭義のコンプライアンス(法令順守や納税、雇用など)
第4象限(右下)社会貢献・フィランソロピー

 

CSRを「企業が利益がでた時にだけ寄付の形で行う社会貢献」に矮小化してしまうと、ソフトローなど社会からの要請に対応する「広義のコンプライアンス」(第2象限)や、「SDGsアウトサイドイン・ビジネスアプローチ」など価値創造型CSR(第1象限)が置き去りになりがちです。

数年前、日本でCSV(共有価値の創造)がブームになった時にも、「CSRはもう古い」「これからはCSVだ」との声も聞かれました。しかし、4つの領域図の通り、CSRはCSVをも含む広い領域であり、その4領域すべてが同等に重要なのです。

そもそも、「SDGsを社会経済システムに実装化していく」ためには、まずCSRを包括的に理解し、そのツールとしてのSDGsに向き合うことが重要です。SDGsの取り組みは、上記のCSR領域図にある4つの象限すべてが欠かせないのです。

第1象限の「価値創造型CSR」や第2象限の「広義のコンプライアンス」を知らないでSDGsに取り組むと、企業や組織にとってはむしろリスクが増えることになります。例えば、広義のコンプライアンスでは各種CSRイニシアティブへの対応や、NGO/NPOとのエンゲージメントが問われます。

最後に、このコラムでは「国連が目標年とする2030年には5GのSDGs実現を期待している」と結んでいます。もちろん、私もそうなることを望んでいますが、口で言うほど簡単な事ではありません。

日本の相対的貧困率は15.6%に達し、ひとり親世帯の貧困率はOECD加盟国35カ国中ワースト1位です(SDGsゴール1に関連)。

男女間の機会格差を表す国連ジェンダー・ギャップ指数(GGI、2018年)ランキングで日本は149カ国中110位です(SDGsゴール5に関連)。

こうした課題に真剣に取り組むことなく、企業や組織にとって都合の良い解釈だけを優先させるなら、2030年の日本の状況については悲観的にならざるを得ません。そんな思いを抱きながら、このコラムを読ませて頂きました。